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歌舞伎よもやま話

【歌舞伎よもやま話】第八話「番付け」 / 語り:大城戸建雄

こんにちは。手ぬぐい専門店 麻布十番麻の葉です。

歌舞伎にまつわるよもやま話をお届けします。語りは大城戸建雄氏。麻の葉の歌舞伎手ぬぐいの原画を手掛け、歌舞伎に精通している大城戸氏による『歌舞伎よもやま話』をご堪能ください。

歌舞伎よもやま話「番付け」

劇場では、毎月の公演内容を紹介するパンフレットが販売されている。
俗に「筋書き」とか「番付け」といわれる冊子で、公演する演目のあらすじ、配役、みどころ、出演役者の紹介と役に対する心構え、研究者や劇評家の解説、そして過去の上演記録などが記載されている。初めて見る狂言なら、まずそのストーリーを読み、予備知識を入れることで観劇の深さの度合いがぐんと増すこと間違いない。また、知っている狂言なら、今回誰がどの役をやるのかというところに興味が湧き、「あっ、この人がこの役やるんだ」と期待感が湧き上がる。初役だとわかれば「しっかり!」と応援したくなるものだ。
番付けといえば「相撲番付」がよく知られている。1枚ものの力士の順位の一覧表で、興行期間と場所などが明記してある。それに倣って時には瓦版のような、簡単な筋書きと配役、そして芝居の場面を描いた1枚もののチラシを歌舞伎でも発行することもある。勘亭流文字で書かれた役者の名前、紋どころ、そして浮世草紙に描かれたような見世場の絵(吹き出しにセリフを入れれば漫画と変わらない)は、江戸庶民が楽しみ、 ストーリー展開に想像を駆り立てた劇画である。また相撲の番付けのような東西名優番付表なども顔見世興行の時などに付録として筋書きに添付されていたこともあった。
私の所蔵する歌舞伎の番付けで、思い出深くかつ大切なものは、昭和37 年10 月1 日発行の大阪新歌舞伎座の、『十一代目市川團十郎襲名大興行』と銘打ったものである。前田青邨の見事な鯉を描いた表紙、68 ページの冊子ながら、かつ、つぶさに市川家、團十郎の沿革がわかる内容である。そして、私が初めて観た舞台であった。(当時はテレビで歌舞伎中継が時々あって、六世中村歌右衛門のお岩などそれまでに見てはいたが)高校1年生の初見である。團十郎の来阪は、九世以来実に65 年ぶりとのことで、関西政財界肝いりの盛大な興行だったと記憶する。以後番付けは観劇ごとに購入しているが、それぞれに劇場側で工夫を凝らしているようだ。その一つに、いつから始まったか調べていないのでわからないが、第二次大戦以降の上演記録、つまり今月上演する芝居の過去の配役の記録が掲載されているのだ。「以前見た同じ芝居で、あの役が印象に残っているが誰だったか」といった時に大いに役に立つ。そして比較しながら芝居が楽しめるのだ。だから、過去に見た芝居が公演される時は、すぐにこの記録欄を見るようにしている。また、名題下の役者の顔写真も今の番付けには載せてある。通りすがりの端役でも、演技が眼にとまる輝きがあれば、あとあと注目するのにありがたい。毎年発行の「かぶき手帳」もあるがやはり実際に観劇している時に記憶にとどめるのが一番だ。2 年3 年経って成長し、重要な役回りにつくのを見ればこれもまもた歌舞伎愛好家の楽しみの一つである。
番付けを損得尽で言うのも気がひけるのだが、興行の前半に販売される番付けには舞台写真が少なく、事前広報用のスチール写真のみである。後半に販売されるものには、ふんだんに、それが掲載される。ご贔屓の役者がいるファンはプロマイドを買うが、プロマイドは役者の大写し。舞台の雰囲気や役者の
絡みなど後日思い起こすのに、客席からの撮影が禁止されている以上、この番付け掲載の写真が貴重になってくる。だからこの舞台写真が記載されている番付けを買いたいと思えば、どうしても観劇日が後半になる。
何日目から切り替わるのか、劇場に聞かねばと思いつつまだ聞けていない。

歌舞伎座売店では、「麻の葉」の手ぬぐいを販売しております。「幕間」にはぜひお立ち寄りくださいませ。

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